
万病に効く薬コノテカシワ
英陽邑甘川1里の村を挟んで流れる半邊川の切り立った絶壁の間に滔々と流れる川筋を眺めると、そばにあるコノテカシワ樹林はあたかも屏風のようで晴れ渡った日に水の上に映る影は仙女が戯れるところが他にはないと思われるほどである。 澄んだ川にはナマズとコイㆍフナㆍコウライケツギョが思い切り力を自慢して甘川の堰きを飛び上がり、絶壁の向かいの村ではのんびりした村の林が思う存分昼寝をしているとき、ここを訪れる観光客は肌寒い風に襟を合わせる。側壁にぶらさがる松ㆍもみじㆍ山桜がひときわぎっしりしているのに、コノテカシワが生えている石壁には奇妙な岩と樹林が調和して本当に神秘的だ。
昔からコノテカシワが踏台の合間に自生して至るところに繁っているのに、このコノテカシワはここにだけ集中して自生して他の地域ではほとんど見ることができない植物学上珍しいものといえる。 昔貧しかった時代にはこの神秘的なところに自生するコノテカシワが万病に効く薬として使われた時代があった。
病院がなくて治療が受けられず、病院があってもお金がなくて治療が受けられなかった貧しい農村ではこのコノテカシワの枝と葉を茹でて食べると婦人病(赤帯下)に効くといううわさが広がり、遠くからもこのコノテカシワを手にいれるために来る人が多かった。
すると村で泳ぎも上手で絶壁にもよく登る力があって若い青年たちが客の注文を受けて腰に縄紐を回して片手に鎌を持って半邊川の川水を泳いで渡り絶壁の角を片手でつかんでやっと石壁を登る。
見ている人ははらはらする。ひょっとしてたたりでも受けるかと「神よ、見守ってください」心の中で無事にコノテカシワを切ってくるように祈る具合いの悪い人の家族。無事にいい薬材を手にいれて来ることを祈る。幸いコノテカシワの枝をいくつか切って持っていった縄で縛ってまた腰に縛ってから鎌は口にくわえて両手で川水をかきわける。
ほんとうに苦労して川を渡って来る。息もとぎれそうになりながら無事に川を渡ってきた青年、瞬間ほっと安堵のため息をつく客。それで手間賃をいくらかあげるといい結果があることを願う村の青年の挨拶を後ろにして急かされる患者の家族はそそくさと歩みを早める。大勢の人たちの民間療法にも使われた天然記念物甘川コノテカシワ樹林は国家指定天然記念物第114号(1962.12.3.指定)で英陽郡英陽邑甘川里山171番地に位置し木の高さが3~5mの群落をなしている。